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「白い花が好きだ」

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まわりの木や草が、もうみんな朝ごはん済ませて「さあやるか!」って時に、寝ぼすけのマメ科のエンジュやニセアカシアがやっと起きだしました。これから大あわてで準備して、2週間後には甘い蜜たっぷりの白い花を咲かせます。大ぶりなのに決してハデではなく、木陰にひっそりと一叢咲いているユリ科のオオバナノエンレイソウ(写真)。この清楚で白い花は、アカシアが白く盛り上がる前に花弁を落とします。 その10日ほどのあいだ、ちょうど今は、バラ科のシウリザクラやナナカマドが「忘れないで」とでも言いたげに白い花房を渾身の力を込めて枝先から突き上げています。<暦どおり>とはよく言いますが、人間の思惑など全く意に介さないかのように、<暦>は絶妙のバランスを保ちながら絶えることなくページをめくります。人間がもっと謙虚だった頃、人智の及ばないその自然の<力>は、どれほど頼りになり、心に安寧をもたらしたことでしょう。新田次郎がその著書「白い花が好きだ」で書いたのは春一番のコブシの花ですが、サクラと一緒にコブシが散ってからも白い花が続き、ニリンソウ、ミズバショウ、キクザキイチゲ、エゾノコリンゴ、オオバナノエンレイソウ、

5月のルル

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子供達ももう目が開いて巣穴の外に出てくる頃だ。あんまりのんびりもできないが、ちょっとの間、うるさいセミ時雨れを聞き流しながらお気に入りの場所で寛ぐ。 眼の奥には厳然とした野生の光を湛えているのに、まるで飼い犬のような穏やかさで接近を許し、触れようとさえしなければ立ち去ることもない。去年の秋おそく、工房の前を何度も通りかかる子ギツネに目が止まり、冬を越し、春が来て、親になって初夏を迎えた。 窓の外にルルの姿が見えると何故かちょっと安心し、何日も見えない日が続くとどうしているのか気に掛かる。心の中にしっかり存在の位置を占められて、この関係がいつまで続くのだろうか。 「この人にはかなわない」と思う人に竹田津実さんがいる。獣医で写真家で著述家、それよりも<キタキツネ物語>や<こぎつねへレン>などの映画監督・制作者としての知名度の方が高いかもしれない。そんな氏に知り合えたのは今から20年以上も前。その頃はちょうどバブル絶頂期で、アウトドア系のイベントや写真展も多く催され、講師としての竹田津さんの話しを舞台の袖で聞いたり、打ち上げで夜更けまで呑んだりしたものだ。博識をひけらかすことなく独

無意根山

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「白きたおやかな峰」という本がある。医者でもあった北杜夫氏が、カラコルムのディラン峰の遠征隊に随行した際の、小説というより随筆のようなものだ。初めて読んだ昭和40年代から、<たおやか>という語句がずっと気に掛かっていて、Amazonで見つけた320円の古い文庫本を1500円で手に入れたのを期に再読した。ディランはパキスタンの奥地、ヒマラヤの西にあって、標高こそ7千米に満たないものの、かつて新谷暁生氏らが遠征したラカポシと深い氷河の谷を挟むように位置する、人間を拒むかのような岩峰だ。 著者は、長く乾いたキャラバンの途上はじめて見えた谷の奥の白い山を<たおやかで白い>というイメージを持ったのだろう。しかし実際のディランは岩と氷の山で、近づくほどに<たおやか>という女性的なイメージとは程遠い。札幌の中心街からは見えないが、街を貫く豊平川をずっと遡った水源近くに、秋10月から夏の7月まで白い雪を纏った無意根山がある。毎朝川沿いの道をこの無意根山に向かってクルマを進めながら、「この山こそ白くてたおやかなイメージにぴったりだ」と自分一人でずっと思ってきた。 11月から5月までの半年以上は「

道端の太陽

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明治新政府が北海道開拓のために高給でスカウトした外国人教師が、葉をサラダとして利用する目的で持ち込んだといわれるセイヨウタンポポ。種子にパラシュートを付け、風に乗って100kmも拡散するという戦略と、地中に真っ直ぐゴボウ根を下ろし、春先から初秋までの長い花期で次から次に花を付けるしつこい性格で、その強さが故の憎まれっ子。いまや日本中至るところの道端や空き地に蔓延りまくり、ありきたり過ぎてじっくり観察する人は少ない。道の両側いちめんに咲いたこの時期のタンポポは、夏や秋の花と違って、じっと見ていると眼を痛めてしまいそうなほど若さが持つ力を発散する。 かつてこのフレッシュで力を秘めた黄色を、カヤックのデッキに使おうと試みたことがあった。しかし、人工の顔料を使って生命力のある黄色を作るのは所詮無理だった。春のタンポポの黄色には太陽が宿っているのだ。 そう思って見ていると、タンポポと太陽は驚くほどに親密な関係で結ばれている。夜間や雨降りに花をすぼませているのは誰でも知っているが、では、どのタイミングで開くのか。夜が明けていくら明るくなっても花を広げるのは太陽が出てからだし、まだまだ昼間の明るさは

スネークキャベッジ

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このあいだまで白無垢の襟を立て、さわやかな雰囲気に包まれていたミズバショウの湿地が、もうこの状態。 草丈70cmほどの葉が大きな株になり、やはり今だけこの湿地の主役を務める。これからも葉は伸び続け、1メートルを超えるほどに成長するのだが、その頃にはこれから猛スピードで伸びてくる葦に隠されてしまい、そんな大きな株があることさえ近くで見ても分からない。 同じように大きな葉をしたサトイモの仲間だと聞けば納得できるが、一般には<夏の想い出>で詠われる尾瀬の清楚で白いイメージが強く、葉っぱに関心を持たれることはあまりない。 サトイモ科の特徴である仏炎包は花でも花びらでもなく、真ん中に立つトウモロコシの食いカスのような黄色い棒が、小さな花をいっぱい集めた花序と呼ばれる。北海道のような寒冷地でサトイモを栽培されることはほとんど無いが、こいつの仲間は結構ある。ミズバショウと同じく早春に咲き、仏炎包をパラボラアンテナのようにして太陽熱を集め、中心の花序に虫を呼ぶザゼンソウ。コンニャクと同じような茎の肌をしたマムシグサや食虫植物のようなテンナンショウ。蛇が鎌首をもたげたように見えるからか、北海道