最低気温が25度以上の熱帯夜こそ北海道には無いものの、このところ夜になっても何だか蒸し暑いのは、ロンドンオリンピックの中継に熱中しているからばかりではないでしょう。 北海道各地のヘイケボタルもクライマックスの季節を迎えています。あと一週間もすれば満月の明るい夜になり、精いっぱい光りのサインを出しても目立たなくなるので、まさに今がいちばん大切な期間ということになります。最近では生物学者による昆虫のDNA解析も進み、北海道各地に生息するホタルに付いても色々なことが判ってきました。これまでどれもみな同じと考えられていたヘイケボタルが、水系によって遺伝子が違い、おしりの発光器を点滅させるディスプレイ間隔も、極端な場合は隔てられた一本の川ごとに異なることが明らかになりました。そしてその事実を、わたしたちはどのように類推すれば良いのでしょう。もともと南方系のホタルの仲間は、人間が地球に出現するよりもずっと昔から、寒冷期には南下し、温暖な時代は北上して、少しずつ適応しながら生息圏を北に拡げてきました。 魚のように幼虫が海を泳げる訳でもなく、羽があるからといって鳥のように遠くまで飛べるわけでもない、し
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ホタル受難
夜になっても昼間が残した蒸し暑さを感じるようになって、ホタルもそろそろ飛ぶ頃かと、近くの西岡水源池に散歩がてら行ってみた。最盛期はもう少し先なので、乱舞というほどではないが、せせらぎの上や水辺の草の葉先に今年も物言わず光っている。 月の光もない暗い川べりには、結構な数の親子連れやカップルが、声をひそめてじっと見入っていた。独特な浮遊感を添えて残される航跡や、この上なく儚い発光と点滅にじかに触れて、大人も子供も一生忘れ得ない時間をもらって帰る。残念なのは人間の持っている発光器だ。足元が暗いと言ってはホタルの数万匹分の明るさをあたりに拡散させる。「どこどこ?見えないよ」「ほら、ここだ、ここ!」と、よけい見えなくなるのに、信じられないほどの光量の中心をホタルに合わせる。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「わたしらホタルの尻が光るからって、珍しがって見に来てくれるのはいいけど、なにもこれ、好きでやってる訳じゃないんすヨ。1年、いや北海道の場合は2年も3年も掛けてやっと成虫になって、死んでしまうまでの10日ほどの間に、なんとか交尾して子孫を残さなきゃってネ。わたし
Zill <ジル>
昨夏までノーライトで働いてくれていたダイスケの店<Zill>がリニューアルオープンした。 かつては奥さんのキミちゃんと一緒に同名のカフェをやっていたらしいのだが、どうも思惑通りに儲からないのと、キミちゃんの妹でスイーツを勉強したマユミちゃんが加わることになり、店は二人に任せ、数年前からダイスケは外で別の仕事をしていた。 昨年の今頃、ダイスケは悩んでいた。マユミちゃんが出産で抜けることになったのだ。そして、もう一度キミちゃんと二人で再出発すると決断した。同時に、店舗改装も二人の手で納得のいくまでやるんだ・・と。8月末に辞めていくときには、確か11月頃にはオープンすると言っていた。それが年末になり、そのうち時期未定になり、冬が終わり、春が過ぎ、そしてそろそろ1年が経とうという先の土曜日、満を持しての新装開店。その店内を見て分かった。「こりゃ時間かかるわ!」 いつの時点で優先順位が逆転したのか、最初の目的だった営業再開が、自分たちで満足できる店造りに取って代わり、オープン日時なんて二の次になってしまったようだ。11ヶ月もの間、来る日も来る日も二人で埃まみれになりながら、解体、下地作
続 ホタルの頃に
ホタルの頃になると必ず思い出す人がいます。既に故人ではありますが、芥川賞作家の高橋揆一郎さんです。始めて会ったのはやはり20年位前、新聞社の企画でホタルに付いての対談でした。誰もが知る大物作家と、カヌーや犬ぞりを作っている誰も知らない日曜大工オヤジの対談など誰が思い付いたのか未だによく分かりません。 酒とマイクがセットされた席につく前に、ホタルが置かれた現状を見て欲しいとお願いして、夜が始まる頃に西岡まで来て頂きました。車から降りてきた高橋さんは、築地の料亭から出てきた川端康成か江戸川乱歩かと思わせるボサボサ髪の着物姿で、こちらを身構えさせるに充分なインパクトでした。 それでも、説明には「フムフム」と頷き、ホタルの生息域の木道にさしかかる頃には、灯りを消すようにとのお願いに、お付の人が足元を照らしていた電燈を消させ、履いていた下駄を脱いで足袋裸足で歩いてくれました。 暗いせせらぎの傍に立ち、差し出した指の先にとまったホタルの、熱は持たないが暖かいあかりに、獅子頭のように厳ついその顔が柔和な表情に変わったのを今でも思い出します。 後で聞かされました。 「いやー、実は初めて見たんだ、ホタル
ホタルの頃に
ウバユリが花びらを落とし、アジサイが花をつけ、一日の平均気温が20度を越えるようになると、恋の季節を迎えたホタルたちが水際を飛び回るようになります。 毎年、7月下旬から8月上旬に掛けて、自宅のそばの西岡水源池にはホタル見物の人たちが大勢やってきます。この水源地のホタルが報道等で一般に知られるようになったのは、今から20年ちょっと前でしょうか。ちょうどその頃、大手飲料メーカーがスポンサーになり、新聞社も協賛して、「ホタルを呼び戻そう」的キャンペーンが始まり、観察会やシンポジウムに呼ばれて出かけたものでした。 今でもよく覚えているのは、D新ホールでのシンポジウムです。若さも手伝ったのでしょう。パネリストとしてそんなスタンスで語るのは主催者の意図に反すると承知しつつ、ホタルの人工増殖を薦める大学の名誉教授を前にしながら、自由に持論をしゃべらせて頂きました。 今になると、もう少しソフトに婉曲にとも思いますが、当時は人間のエゴに対して怒っていたのです。そしてその想いは現在でも変わってはいません。「ホタルの棲める清流を呼び戻そう」がキャッチフレーズでした。子供の頃の夏の夜、自宅近くの小川のあたりで