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ホタル受難

夜になっても昼間が残した蒸し暑さを感じるようになって、ホタルもそろそろ飛ぶ頃かと、近くの西岡水源池に散歩がてら行ってみた。最盛期はもう少し先なので、乱舞というほどではないが、せせらぎの上や水辺の草の葉先に今年も物言わず光っている。
月の光もない暗い川べりには、結構な数の親子連れやカップルが、声をひそめてじっと見入っていた。独特な浮遊感を添えて残される航跡や、この上なく儚い発光と点滅にじかに触れて、大人も子供も一生忘れ得ない時間をもらって帰る。

残念なのは人間の持っている発光器だ。足元が暗いと言ってはホタルの数万匹分の明るさをあたりに拡散させる。「どこどこ?見えないよ」「ほら、ここだ、ここ!」と、よけい見えなくなるのに、信じられないほどの光量の中心をホタルに合わせる。

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「わたしらホタルの尻が光るからって、珍しがって見に来てくれるのはいいけど、なにもこれ、好きでやってる訳じゃないんすヨ。1年、いや北海道の場合は2年も3年も掛けてやっと成虫になって、死んでしまうまでの10日ほどの間に、なんとか交尾して子孫を残さなきゃってネ。わたしら月夜もダメなんです。月の明るさにさえ勝てないんですわ。それなのに懐中電灯なんかで照らされたら、一瞬で目が眩んじまって、もう、レーザー光線で撃たれたような、ピカドンにあたったような・・。それから、捕まえて手の中に入れるのも勘弁して欲しいんですわ。特に体温の高い子供ね。20度くらいが適温なのに高温多湿の手の中はもうフラッフラ。 あと、捕虫網と虫かご持ってきて大量に捕まえるのも止めて欲しいんだな。昔から、歌の文句や本のせいで、それやってみたい気持ちは分かるけど、いくら集めたって絶対に本なんか読めませんって!」

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流れに添って歩き始めて、街灯や遠い街の灯りが遠ざかったら、電灯を点けずに歩いてみて欲しい。やがて目が闇に慣れ、見えなかった物が見えるようになり、普段使わない五感が研ぎ澄まされて、必ず自分の潜在能力に驚くはず。そしてホタルが近くなり、心もホタルに近づける。

お願いがあります。懐中電灯を持つなとは言いません。でも、LEDは止めて下さい。あらゆるものを無感情で刺し貫く、あの冷たいだけの明りは、水辺のホタル見物には似合いません。

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