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森が危ない

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夏が長びいたせいで暦が半月以上も遅れているようです。工房周辺の木々もさっぱり紅葉が進まず、まだほとんどの木の葉は落ちもせずに青々としています。そんなのんびりムードの地上のものたちを置き去りにして、気温だけが冬に向かってピッチを上げてきました。周りの山の頂は白くなり、峠を越える国道も何度目かの積雪状態になって、ほんの1ヶ月前に積丹の海でカヤックを漕ぎ、仲間が泳いでいたのが信じられないほどです。こんな状態で初雪を迎え、その湿った雪に痛めつけられて周辺の森が大きな被害を出したことがありました。数年前の今頃。今年と同じように色付き始めてはいたけれど、その葉を落とす準備が整う前の森が白い災いに被われたのです。朝から降っていた雨が夕方にはみぞれ混じりに換わり、暗くなってから急に入り込んだ強い冷気が、葉に付いた水滴を氷にしはじめます。降り続くみぞれは葉先に触れて氷になり、みぞれはだんだん湿った雪に変わって、朝までに30センチの積雪になりました。氷と雪は葉っぱどうしをくっ付け、枝どうしをくっつけてその重さで樹冠を地面に押し付けたのです。大木が弓なりの曲線を描き、耐えきれない幹が悲鳴をあげながら次々に折

ルルの1年

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・・斜め後ろから何となく視線を感じてふと窓の外を見ると、若いキタキツネがいつからそこに座っていたのかジッとこちらを見据えていた。ドアを開けて2〜3歩進み、「オイ、どした・・・。ルゥルルル・・・。」怪訝そうな顔でちょっとだけ頭を傾げるが動こうとしない。無視するのは失礼な気がする。少し遊んでやろう。話しかけながら3メートルほどに近づくと面倒くさそうに立ち上がってすこし遠退くが、背中を向けて戸口まで戻ると、ヤツも元の位置に戻って無表情にこちらを観察している。「明るい箱の中にいるコイツは何者だ」「何か食い物と関係は無いか」「手に持ったやかましい音のする物は何なんだ」純粋に知りたいのだ。成獣が持つ斜め下からの猜疑心に満ちた視線ではなく、緊張感や恐怖心を押さえても、知りたい確かめたいというピュアな眼が、しばしの間、野生に生きる若い力を見せてくれた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・   上記の文章は昨年の10月1日に、ブログにする前のトピックス欄に書いたものです。 あれからルルは独りで厳しい冬を生き抜き、子供を生み、育て、また独りになって次の冬を迎えようとしています。 お互

だるまさんがころんだ

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子育てから開放されたからか、ルルの動きにどことはなしに若い頃の軽快さが戻ってきた。毛艶も良くなってきたし、なにより独り身の気楽さが眼差しの奥に潜んでいた暗さをどこかへ押しやった。 いつもの林から草地に出てきたところを見つけて、写真に撮ろうとカメラを構える。 レンズに慣れたのか全く気にする素振りもない。10メートル位まで近づいたところでファインダーから目を上げて肉眼で見た。視線を感じたルルは気まずそうにその場にピタッと止まり、横を向いて素知らぬ顔。 また顔をカメラに戻すと、すくい上げるようにこちらを見ながらゆっくり近づく。また顔をあげると、その瞬間に動きをとめて視線をあらぬ方向へ。 動いては止まりを4〜5回繰り返して少しずつ近付き、3メートルほどのところにあるいつもの場所に腰を下ろしたのだが、いま起きた事、この1分間を振り返って遠い時間を想い出した。 子供の頃にやった「鬼ごっこ」じゃないか。板壁や電柱に顔を押し当てて目をつむり、十の文字数を言い換えて「だるまさんがころんだ、だるまさんがころんだ・・」と数えながら、振り向いたときに動いているヤツを見つけるとそいつはアウト! ・・って。 な〜

合掌

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昨夜、帰宅しようと工房を出てすぐ、ヘッドランプの灯りの中心になにやら丸いかたまりが・・。 クルマを降りて近づくと、道路の真ん中にエゾタヌキが横たわっている。事故死だ!という直感はありつつも、後ろ向きの姿には悲惨な状況が見えず、フワフワの毛先は寝ているようにも見える。 「道路の真ん中で、そんな訳ゃ無いだろ」とツッコまれそうだが、タヌキの場合、そういうことが無くも無い。極度の緊張や恐怖に遭遇した場合、自ら仮死状態になってしまう場合がよくあるのだ。これをして「死んだ振りして人をだます」とか「タヌキ寝入り」と言う。 実際、接触した覚えはないのに、クルマの前を横切ったタヌキが道端で急に事切れてしまったことがある。その時は「可哀相に、轢いてしまった」と自分を責め、どこかに埋けてやろうと助手席の足元に横たえて走っていて、いきなりガブッと運転中の足に噛み付かれたのだ。死体だと思い込んでいたので、一瞬何が起きたのか理解できなかったが、後になって「タヌキに化かされた」とはこのことなのだと知ることになる。前側に回り込むと、口元に小さな血溜りがあり、やはり輪禍死だったことが判った。このまま道路の真ん中に放置は

バードストライク!

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今朝、コーヒーを啜りながら新聞を読んでいると、自宅の窓ガラスに「コンッ」というさほど大きくはないが耳の奥に残る音。「ンッ?もしかして・・」とベランダに出てみると、思ったとおり足許に小鳥がうずくまっている。体重5グラムほどのハシブトガラだ。山の中にある工房では、年に何回も小鳥が入ってくるし、毎年一度や二度は閉まっている窓ガラスに間違って衝突するバードストライクが起こる。 原因は猛禽などの天敵から逃れるためにパニック状態で・・とよく言われる。まあ、そんな状況なら無理もないが、どうも毎度毎度そういうケースではないようだ。ぶつかる前から視界に入ってたまたまその瞬間を見ていたこともあるが、人間の運転ミスと同じように、うっかりや脇見(鳥の眼は両脇しか見えないか)などの注意力欠如による場合が殆んどではないだろうか。 でもこの場合は里山の自然な環境の中に、透明で硬質なガラスという人工物を設ける方が悪い。ぶつかってしまった小鳥の落ち度を指摘するのは筋違いというもの。こういうトラブルが起こるたび、鳥や昆虫たちに本当に申し訳ない気持ちになってしまう。しかし、今朝の事故が起きた自宅は人工物だらけの市街地にあ