四半世紀ほど前からだろうか。
それまでは、「産卵の為の遡上を控えた鮭たちは絶食状態に入って、何も口にせずに淡水に慣れようとする。だからいくらそこに鮭がいてもエサなんかで釣れるもんじゃない。」と、それが常識だったのだ。
誰が始めたのか、まるで裸の王様を見破った子供のように海からアキアジを抜き上げる人たちが出始めた。サンマの切り身をエサにチョイ投げで銀ピカが釣れるのだ。いやルアーだ、やっぱり遠投だ。と、今では秋の声を聞くと北海道中の海岸の何処へ行っても鮭釣りの人、人、ひと。
オホーツク海側、太平洋側、日本海側。北海道を囲う何百何千キロの海岸線が、この時期、10メートルおきに釣竿で囲まれる。そして、その持ち主達は冷たさを増す潮風に耐え、我慢強く竿先のしなりを待つ。
それにしても・・、と、おじさんは思う。
周囲の目を集めながら数分間のファイトの末に、濡れた砂の上でバッタンバッタンと暴れるアキアジを押さえつけ、エラに指をかけて疲れたフリして大型クーラーまで運ぶ。
コイツを一度味わったら、みんなフリークになってしまうんだろうな。