今月初めに白い花のことを書いてからほぼ2週間、ニセアカシアの花房が膨らんで、あと2〜3日で野山に白い爆発が始まります。同時に、見上げる札幌岳の西の肩に最後まで残っている残雪が、今にも消えようとしています。例年であれば、アカシアの花期の最盛期に、がっちりバトンタッチして消えていく名残の雪が、今年は珍しく今にも力尽きそうです。
珍しいといえば、何年ぶりでしょう、カッコウが戻って来ました。昭和50年代後半までは、札幌の市街地でも初夏を迎える頃になるとあたりまえのようにあの鳴き声が聞こえていて、札幌市のシンボルにされるくらい馴染み深い鳥だったのです。
高度成長期が終わる頃、ふと気付くとカッコウの声が札幌から消えていました。<鳥屋>さんたちは慌てていろいろとその訳を探りましたが、夏場を過ごす北海道に原因があるのではなく、越冬地であるフィリピンやインドシナでの大規模な森林破壊こそが元凶だということになりました。
数年前からは「カッコウの声を聞いたらお知らせ下さい」と、ラジオ局などが呼びかけるようになり、静かに忍び寄るかのような<異変>にみんなが気付いたのです。
カッコウの声こそ聞こえなくなったものの、それに反比例するかのようにツツドリの声はよく耳にするようになりました。ポポポポ、ポン、ポン、と遠くで鼓を打つようなツツドリの声がこんな里山で常に聞こえるのは、それはそれで変わったようにも思えるのです。見た目はそっくりなカッコウとツツドリですが、もともとツツドリはもっと高い山の高木の梢でよく響く声を出していたものですし、よく知られた托卵も、カッコウが主にウグイスの巣を使うのに対して、ツツドリは主にセンダイムシクイという違いがあります。ウグイスの営巣数に変化が見られないことから、どうも托卵困難や餌が原因という訳でも無いようです。所詮、人間の頭では生態系のバランスなんか分かりっこないということでしょうか。
このところカヤック造りを中断し、南極や北極で使う氷の厚さを調べる器械の樹脂ケースを作っているのですが、最近の工程が型の研磨ということもあり、工房の外でひたすら水研ぎに明け暮れる毎日です。全く機械音の絶えた山の中で静かに仕事をしていると、まあなんとたくさんの音に満たされているのか改めて気付かされます。そんな中、昨日は5年ぶり、いやもっと久しぶりのカッコウの声が聞こえたのです。懐かしさに思わず手を止めてしばらく聞き入ってしまいました。
今も近くで鳴き続けるツツドリの声。ピッコロの名手ウグイスの金管音。カラ類のチッツチッツという地鳴きやジバチの小さな羽音、クマゲラのうるさいドラミングやエゾハルゼミが出す今を限りの騒音などなど。
さあ、今日も一日、いろんな音に囲まれて仕事を続けますか。