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楢山節考

たぶん小学校高学年の頃だったと思う、この映画を見たのは。それからずっと記憶の奥の暗がりに、うろ覚えではあるが棲み続けている。

1958年に作られたこの映画は、41歳にして処女作という深沢七郎の原作、木下恵介脚本・監督、田中絹代主演で、フィクションではあるが、かつて全国にあった姥捨の因習を映画化した問題作だったという。

食糧の乏しい山間の部落では、口減らしの慣わしとして、数え七十になったら楢山さまへ登って自ら命を絶つことになっており、老いた母親を息子が背負って神の住む山頂まで運ぶという、やるせない永遠の別れがストーリーではある。

60年以上も昔の映画ではあるが、記憶にあったタイトルを見つけて、観るというか確かめてみたくなった。

 

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楢山節考

年代を考えると無理もないことではあるが、画質の悪いこと夥しい。当時は「総天然色」と誇らしく呼ばれたと思うが、今見ると色使いの不自然なこと。

ロケはなく、全編撮影所のセットで撮られているようで、まるで学芸会のステージにしつらえられたかに見える。奥行きの感じられない背景は、山並みや夕焼け空がいかにも手描きのようだし、土を敷いた床板の上を歩く役者の足音はトントンと軽い音で入ってくる。

子供の頃の印象では、のちに観ることになる「裸の島」のように、セリフが極端に少なくてまるで無声映画みたいだったと記憶していたのだが、そうではなくて、全編にわたって琵琶の音がベンベンベンと途切れなく響き続けるので、よく聞こえなかっただけなのかもしれない。

 

エンドロールのあと突然、時代に合わないSLが線路を走るシーンが映って、停まった駅が「おばすて」という。これは長野県にあるというのだが、映画の舞台ということではなく、地名として残っているというだけのこと。姥捨の忌まわしい習慣はいたるところにあったという。

 

毎日、おにぎりにして1億個以上が捨てられているという今の日本にあって、飢餓をイメージできる若者がどのくらいいるのだろうか。

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