金曜日のお昼頃、そいつは突然襲いかかってきた。
猛烈な足のダルさに立っていられなくなり、フラフラしながら外へ出て座り込んでしまった。まぶたにも力が入らず、引き下ろされるように上まぶたが下がってしまう。うあっ!こりゃダメだ。風邪かな? ちょっとでいいから横になろう。
1時間ほどソファーにひっくり返っているうちにどんどん熱は上がり、全身から大量の汗が噴き出してきた。またこのソファーが布製クロスではなく革張りとあって、水気の吸い込みが悪く、触れるだけで気持ち悪いことおびただしい。
とぼけた顔でいつものように帰宅したのだが、異常な風貌だったのだろう。一瞬でカミさんに見破られ、極細のカンチョーのようなやつを脇の下に差し込まれる。
「なにこれえ!39度7分もある」の声を遠くに聴きながら、何とか着替え、いろんなクスリを冷水で腹に流し込むと、布団の中で自覚の無いままキゼツする。
夜中の3時過ぎ、我が家の老犬が布団の上にあがり鼻を摺り寄せておしっこを知らせるのがルーティーンになっているが、それまでに何度起き上がっては氷を浮かべた水をガブ飲みしたことか。シーツは何リッターもの汗で、洗濯を終えて乾燥に入れる前のような状態。どこに身体をズラしても乾いた部分が無い。夜が開けるまでの長かったこと!
朝になって再び計った体温は40度9分。あれだけ解熱剤を飲んだのに上がってる。しかし症状は体温と汗だけ。全く咳もクシャミもでないし咽も痛くない。頭も・・いやさすがにこれだけの熱だものフラフラはするけど頭痛は無い。なんか、風邪じゃないぞコイツは、? でも、じゃあ何? ふだん関心の無い病気の知識では勝ち目も無い。
そんなことより、羽田から朝イチの飛行機で赤ん坊を見せに来る姪夫婦を迎えに千歳空港まで行かなくちゃ。出かける支度をしていると、当然のことながら行くな行くなの連続射撃。でも自分的には大丈夫。頭は痛くないし咳も無い、困るのは汗と熱だけ、運転できないわけがない。
高速道路を走りながら、ハンドルに手を添えた右手の人差し指を見て、何の根拠もなくふと思い浮かんだ。こりゃ破傷風のようなもんじゃないか?そう思ったのは2日まえにトゲが刺さったツメの脇。普段なら無視して忘れるくらいのものが化膿して大きく腫れている。いまどき破傷風はないだろう。でも何かの常在菌が身体に入り込んで、今まさに体内で戦争が展開中か?
ふと気付くと自分のスピードが遅い。右側を全部のクルマが追い越していく。カミさんのクルマとはいえ皆の障害になるようなこんな走りは自分じゃない。でもどうしてもスピードを上げる気にならないのだ。結局、千歳までの高速道路を大型トレーラーのケツを舐めるように走りきってしまった。大型トレーラーの巻き上げる雨しぶきで時々視界を失いながら、その度に夢遊状態に入って何度か思った。このまま大きな力でクルマごと天空へ持ち上げられるんじゃないかと。
半世紀以上前の若造の頃から、「オレは◯◯歳で死ぬんだ」と、根拠も無くだれかれ構わず言い続けてきたその歳が、ちょうど今年か来年だからかも知れない。