酒と肴を囲んでN氏の若かった頃のことを話していた。
今から40年以上も昔のことを・・。
大学入学のために上京し、とりあえず同居予定の兄貴のアパートを訪ねると、中がよく見えないほどのタバコの煙が漂う部屋で、兄貴と知らない同居人達がコタツで麻雀を打っていたそうな。
「いいところに来た。持ってる金を出せ」と言われて親から持たされた大事な金を巻き上げられ、そこにいた皆で出かけてメシを食い、呑み屋で飲んで一晩でスッカラカンになってしまったという。
そんな話の合いの手に「バンカラだったんだな」と入れると、すかさず20代の若者たちが「バンカラってナンすか?それって犯罪でしょ。」と反応した。
「え?バンカラが分かんないってか? う〜ん、そんならハイカラは分かるか?それもだめか。<ハイカラさんが通る>ってマンガがあったろ・・。あのなあ、ハイカラはハイカラー、つまり上品でセンスがいいってことだ。モボ・モガの後、戦前戦後に流行ったんだけどな、それに対してえ、粗野で野蛮なやからをバンカラって云ったんだな。だいたい男なんて精神が一本通ってさえいれば多少不潔なくらいがかっこいいと思われてた時代だ。キレイ好きな男なんてサイテーとみられてた。」
「大学の応援団長の袴姿が分かるか?はやい話が浮浪者みたいな・・。おうホームレスな。ちかいちかい。学帽なんか新しいのは恥ずかしいから蝋を塗ってワザとボロボロにしたり、どこ行くにも下駄だったりな。そうそう。かまやつの<我が良き友よ>の歌詞にあるだろバンカラって。たいしたこと無いくせに悪ぶったりして。ほんとはウブだったんだけどな。まあそんなところがバンカラのイメージかな。」
「昭和60年代後半のビートルズが出てきた頃から、アイビールックが流行ったりピーコック革命なんてもんが起こって、男も清潔でないとアカンくなってきたんだけど、Nさんのその頃はまだ虚勢いのちの残党とその美学が生き残ってたんだな。」
「そうそう。バンカラっていえば、俺の中学校の社会科の先生。このセンセーの若い頃が絵に描いたようなバンカラで、よく授業中に武勇伝を聞かせてくれたもんだ。進駐軍の兵隊と喧嘩したりしてな。おっと、この話は長くなるからまた今度な。」