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春のお裾分け

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工房の前に立つ十数本のシラカバの樹は、田中角栄の列島改造論に日本中が浮かれた頃、耕作放棄された畑にいち早く根を下ろした自然界のパイオニアでしたから、かれこれ樹齢50年近くになるでしょう。胸高直径は40〜50cmになり、毎年サクラの開花と競うようにみずみずしい若葉を萌えださせ、やがて初夏には心地良い木陰を作ってくれています。
発芽した幼樹は、まだほかの雑木や笹が生い茂る前に上へ上へと背を伸ばし、20年ほどで垂直方向の成長を水平方向に変えて枝葉を茂らせながら、幹も枝もどんどん太くなってきました。
そんな毎年変わらず元気なシラカバの樹も、いうなればメタボな熟年から初老に差しかかってきたようです。最近では太くなりすぎた枝を台風にむしられ、頑丈そうな幹も重い雪にボッキリ折られて、森の中での存在感が少しずつ縮小してきたように見えます。

それでも、今年もシラカバの樹液をいただく季節が訪れました。
幾万の細胞膜を通過して汲み上げられる土の中の水は、ただのミネラルウォーターではありません。チューブを通して押し出す力も、滴り落ちる優しい音も、ほんのり残る甘さと共に心まで軽くしてくれるから不思議です。

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