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冬枯れの原野

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六花亭の包装紙やお菓子のパッケージに描かれた、花の画家として知られる坂本直行氏だが、北海道では山岳画家や登山家としての業績や足跡の評価が高い。
近代登山の黎明期に、北大山岳部の初期メンバーとして日高山脈の未踏の峰々に立ち、十勝の原野に身体一つで開墾に入ってからも、寸暇を見つけては超人的バイタリティーで山頂を目指し、作業の合間に筆を持って山々を描いた。
後年になって画業に専念するまでは、開拓農民としての壮絶な労働のなか、原野の向こうにある日高山脈を憧憬とともに描いたものが多くを占める。キャンバスの幅一杯に青空と純白の山並みが配され、近景としては決まって原野のカシワ林が描き込まれた。他の木々が葉を落とした秋から翌年の春ちかくまで、次の新芽を守ろうと茶色い枯れ葉を枝に付けたまま耐え続ける、この原野のカシワに惹かれるものがあったのだろうか。

原野の趣を残すカシワ林に立ってみた。落ち葉をかき分けて歩くとき、まるでポテトチップスを袋からつまみ出すときのような乾いた音が足許にからまり、今も耳の奥から離れない。この林を人力で開墾し、喰う為にこの木を切って炭を焼いた十勝の入植者にとって、この乾ききった音は怒りと諦めが擦れ合う音なのかもしれない。

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