続いて気にかかる元気な人は、東京大学名誉教授の月尾嘉男氏だ。
都市工学の権威にして交通工学にも秀で、全国の道路網に張り巡らされたNシステムの生みの親。まだコンピューターが大型だった頃に、世界で初めてCG(コンピューターグラフィック)を作ってみせた人でもある。
学者にありがちな偏狭さとは正反対に、博識と情熱とニュートラルな立場で説く世界観は聴く人の共感を誘い、つぎつぎと目からウロコを払い落としてくれる。
小泉政権でブレーンを務めたあとは政治の場からは一歩退いたが、その人望ゆえか、地方の政治家や財界人らから私塾を開くように求められ、全国各地に<○○自然塾>の名を冠したゆるい集まりを持つ。背広にネクタイ姿しか他人に見せないような地域の重鎮たちと、ときには焚き火を囲み、ときにはカヌーで川を下りながら、人間や社会を新鮮な角度から酒盃に映し出す。
ウォーターフロントに建つ超高層マンションの自宅から東京湾を見下ろしているかとおもえば、パプアニューギニアの奥地で未開文明に素手で触れてきたり、アフリカの生態系に目立った変化があれば、それを取り上げてその傾向と対策を掌に拡げて見せてくれたりする。
毎週木曜日の朝、仕事に向かうクルマのラジオから月尾さんの声が聞こえ、「ああ、まだまだ元気だなぁ」と思いながら、そのパワーのかけらを改めて自分の心にふりかける。
その元気な月尾先生の本当の年齢は知らない。いや、15年以上前に積丹海岸を一緒に漕いだときだったかニセコで深酒をした時だったか、60年安保に水を向けたら、東大生だった当事のしこりをグラスの中でころがしていたから、戦中派に違いないと勝手に思い込んでいる。
これだけの有名人なら、ネット検索すれば生年月日くらい瞬時に判るのは確実だが、そんなことは月尾さんの元気さに失礼な気がして調べないでいる。いずれにしても大きくは違わないだろう。そろそろ70代半ばを迎えるはずだ。