全員が反対の公聴会を無視して、翌日には特定秘密保護法案が衆院で強行採決された。
「時間を掛けるのは得策じゃない。国民に反対意識が高まらないうちに、この勢いのまま参院も一気に突破だ。<数の横暴>だって?野党もメディアも勝手に吠えてろ!これが<決められる政治>ってもんなんだ。」
「先週、猪瀬東京都知事が5千万円の選挙資金で、ドギマギと子供のようなウソの上塗りで楽しませてくれているそのさなか、ドサクサに紛れて旨いこと日本版NSC設置が可決されたじゃないか。特定秘密法案はこれとセットなんだから、何としても成立させなきゃならないんだ。」
愛国少年の安倍晋三君としては、半信半疑だったデフレ脱却が夏を前にしてうまく軌道に乗ったと見るや、前政権時に続きもういちど憲法改正を持ち出してみた。しかしやっぱりこの国の護憲勢力にまともに立ち向かっても勝ち目が無い。それではと、憲法を変えやすくするために96条をと思ったが、これも参院選を前にして引っ込めざるを得なかった。タイミングとしては今しかない。うるさい奴らをシャットアウトするにはこの法案が絶対に欲しいのだろう。アメリカ様の方を向いたままの安倍くんにとって、国民の知る権利なんてどうでもいい。米国の盗聴問題が世界中で問題になり、同盟国のカナダやヨーロッパ各国はじめ中南米からも糾弾されて旗色の悪いオバマ政権だが、官房長官が「我が国には無いと信じている」とし、日本だけは助け舟を出して、さらにオバマ氏訪日の手土産に秘密保護法案を用意したいようだ。
問題は中身だ。森雅子特命担当大臣でさえ、味噌を加えると言ったり、出来上がってから塩で味を整えるといったり、このレシピで作るとどんな味の料理になるのか誰も判らない。まさに秘密の味だ。このままこの法案が成立すると、欧米では20年から30年で開示される秘密扱いの公文書が、日本では開示が60年後となり、場合によっては永久に歴史から抹殺される。これを許してしまう我々世代は、これから日本人として生まれてくる子供達に対してどう責任を負ったら良いのか。
民主党政権のドタバタぶりに辟易した国民が、決められる政治を標榜するこの政権を選んだ一年前から、こうなることは想像できたのだ。遅かれ早かれこの法案は数の論理で成立する。
特高が暗躍した治安維持法の時代に戻るというのは過剰反応としても、公安警察の人員がどう増えていくかを、メディアは注視して欲しい。(それこそ秘密かな?)
こんな法律をわざわざ作らなくても、この国には<公然の秘密>が山ほどある。核の傘の下と言いながら米軍の核持込は無いとし、アメリカでは公文書館で誰でも見られる<沖縄密約>にしても、いまだに事実無根と言ってはばからない。それどころかスクープした西山太吉記者を罪人に仕立て上げて、事実には頬かむりだ。
サムライの時代からこの国には、「主君の為には舌を噛み切ってでも」とか「墓の中まで持って行く」などと、秘密を守り抜くことが美学としてある。権力側に擦り寄り、真っ黒く塗り潰した請求書類のコピーを、主権者に対して躊躇なく出してくるのも根は同じだ。
多少苦くてもいい。せめて誰もが飲み込める法案にして出し直して欲しい。