ひと月ほど前から、草地の向こうの林の中に子ギツネの気配がしてはいたのです。
初めて目にしたのは2週間前。
開け放った奥の作業場から何かが動く気配。
山の中にある作業場です。
小鳥、蝶、蜂、鼠、蛇と、人間以外のいろんなお客さんが訪ねてくれます。
んっ?もしかして、警戒感の薄いルルが興味を抑えられずに足を踏み入れたかな?
椅子に座ったまま振り返ると、日陰の草地ではルルとショーンが顔や鼻を舐めあってのんびりと寛いでいる姿が。 じゃあ何の気配かな・・?
足音に注意して隣の部屋を覗くと、その瞬間、ちっちゃいキツネといきなり目が合ったのです。
最上級の驚きをその眼球いっぱいにたたえ、四肢をおもいきり踏ん張ったまま、人間でいうと小学1年生くらいのキツネの子が硬直していました。
長くフリーズしていた訳ではありません。一瞬ののちには飛び上がって向きを変え、くつろぐ親達のすぐ脇をかすめて全速力で林の中に消えてしまいました。
その頃からです。天気の良い昼下がりなど、親達の後ろから2頭の子ギツネがこけつまろびつ開けた草地に姿をみせるようになったのは。
2頭の子ギツネは兄弟のはずですが、作業場に入ってきたのは幼児くらいの小さい子、もう1頭は上の写真の、人間ならすでに少年といった成長ぶりです。
親達と違ってニュートラルかつ正常な警戒感が備わっているせいか、人間の気配を認めると、たちまち姿を消してしまいます。
でも、その動きや仕草のめんこいこと。まるで家政婦にでもなったように窓の端からそっと観察していると、おもわず笑顔になっている自分に気付くのです。
蛙か昆虫でも狙っているのでしょうか。頭を下げてジッとタイミングを計り、フワッと前方にジャンプして両方の前脚で獲物を押さえ付けます。 あァ、どうやら逃げられたようです。
今年生まれた子は冬毛ではないので換毛が無く、みすぼらしい姿の親たちと較べて、触れてみたいほどきれいな毛並みです。
この子達がオスかメスかは判らないけれど、親に見守られて成長の時を過ごせるのはあと数ヶ月しかありません。
できることなら、深まる秋の闇の中、突然訪れる子別れ儀式の哀しみに、不信と寂しさと血を混ぜたようなこの子達の叫び声を聞きたくはないものです。