昨日きれいに除雪した工房の前を、夜のあいだに降った雪が数センチ覆っていた。やわらかいキャンバスの上には無数の足跡。
1頭だけの足跡ならいつものことだが、これはルルだけのものではない。ゆっくり歩きながらじっくり観察する。雪面にはっきり残った爪痕の様子や足の運びを読み取りながら、少し前のこの場所での出来事を想像すると、頭の中に映像さえ浮かんでくる。
重なった足跡の新しいものから、足の形を後ろにたどり、時間をさかのぼるようにイメージを膨らませる。 そしてそれを逆回しにすると・・・こうだ。
道路の向こうの除雪で盛り上がった雪からずり落ちるように降りてきた2頭のキツネは、除雪されて歩き易い道を横切り、工房の前までトロットでじゃれ合いながら入って来た。桜の木の下まで進んだときに、前に回りこんだ彼をルルは気の無い素振りであしらい、ちょっと逃げる振りをしてみせた。奥の物置の傍で、追いついた彼とお互いに立ち上がって前足で突きあったあと、アハハアハハと笑いながら(?)しばらく追っかけあって、新雪の中に二すじの溝を残しながら西側の尾根に向かって消えていった。(全ては勝手に擬人化した想像に付き・・。)
そう、キツネたちに恋の季節がまたやってきた。
氷点下15℃を下回る日が続き、積雪深も2メートル近いまだまだ厳しい季節だというのに、野生はすでに体内で春を確信しているのだろうか。
昼過ぎにひとりで現れたルルは、気持ち良さそうに顎の下など掻いたりして、発情の気配は感じさせないけれど、今年もこの時期に受胎し、そして雪解けの四月に何頭かの子供を生む。