・・斜め後ろから何となく視線を感じてふと窓の外を見ると、若いキタキツネがいつからそこに座っていたのかジッとこちらを見据えていた。ドアを開けて2〜3歩進み、「オイ、どした・・・。ルゥルルル・・・。」怪訝そうな顔でちょっとだけ頭を傾げるが動こうとしない。
無視するのは失礼な気がする。少し遊んでやろう。話しかけながら3メートルほどに近づくと面倒くさそうに立ち上がってすこし遠退くが、背中を向けて戸口まで戻ると、ヤツも元の位置に戻って無表情にこちらを観察している。
「明るい箱の中にいるコイツは何者だ」「何か食い物と関係は無いか」「手に持ったやかましい音のする物は何なんだ」純粋に知りたいのだ。成獣が持つ斜め下からの猜疑心に満ちた視線ではなく、緊張感や恐怖心を押さえても、知りたい確かめたいというピュアな眼が、しばしの間、野生に生きる若い力を見せてくれた。
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上記の文章は昨年の10月1日に、ブログにする前のトピックス欄に書いたものです。
あれからルルは独りで厳しい冬を生き抜き、子供を生み、育て、また独りになって次の冬を迎えようとしています。
お互いがお互いの存在を常に視界のどこかで確認しながら、見かけるだけで心安らぐ関係を、この1年余りの時間が作ってきたように思います。まだ雪の残る春に、一度だけその黒い鼻先に指が触れたことがありますが、彼女の方でそれ以上の関係を絶つと心に決めたようで、それ以後は手の届く距離には決して近づくことはありません。
去年の今頃の若くて好奇心いっぱいの眼差しは、1年が過ぎて自信と誇りに満ち、動きや足取りにも成獣の落着きを身に付けました。
野生の深い溝を挟んでではありますが、それでもこれだけ近い距離でその姿や行動を見せてくれていることが、本当に楽しみで、また、幸運にも思います。
「ギュオオオォォ〜〜〜ン」「ァウウウゥゥ〜〜ン」
今夜は雨降り。遠い暗闇から、親と別れた子ギツネの哀しい声が続いています。