工房の正面の森の中に、笹やぶを切り開いた猫の額ほどの<秘密の畑>があります。
かろうじて木漏れ日が射すことはあっても、夏場は日中でも薄暗く、更にまわりから笹の葉が被さって、だれもこの場所を<誰かが楽しみに見守っている畑>とは思いもしないでしょう。
今この場所では、やがて昇華の時を迎えて種を撒き散らす前のネギボウズたちが、人知れず歓喜のダンスを踊っています。
北海道人なら誰もが春の山菜のいちばんに挙げるギョウジャニンニクを、最適な環境でひっそりと育てています。いや、育てるというのは間違いでした。何も手を掛ける訳ではなく、ただ時々元気な様子を確認しながらほくそえんでいるだけです。
落ちた種が数年の内にうまく発芽しても2〜3年の間は1葉だけ、条件が良ければやがて2葉になり、さらに発芽から7〜8年を要してやっと花=ネギボウズを付けます。
喰うために山から採ってきた中から、根っこの残った元気な株を土に差して5年。毎年少しずつ増えてくれて、ほんのちょっとですが楽しみにする気持ちも増やしてくれます。
でも、刈り取って食べるまでにはまだまだです。春恒例の<春旬鍋>には大量のギョウジャニンニクが必要です。大変な思いをして山から採って来るのではなく、ここで採れたヤツで大勢が鍋を囲む日を楽しみに、もう何年かは見守るだけにしましょう。
この種が落ちると葉も枯れ始め、お盆が過ぎる頃にはすっかり地上部が消えて無くなってしまい、雪解け後の一番乗りを誓いながら早めの眠りに就きます。