10日以上姿を表わさなかったルルがひょっこり顔を見せた。夏毛になったキツネがみすぼらしいのは分かっているが、それにしても同じキツネとは思えないほど痩せさらばえて惨めな姿。目立っていたお腹も小さくなって、この見えなかった間にひとりでお産を済ませていたことがわかる。
腰を落としておすわりの姿勢をとったときにチラッとお腹が見えた。いったい何頭の子を産んだのか、乳首が6つ並んで見える。眼の開かない子ギツネたちが小さく鋭いツメをたててむしゃぶりつくのだろう。乳首のまわりの毛が抜け落ち、うっすら血さえ滲んだ肌が痛々しい。
何かの確信に満ちた眼がこちらの思惑をいっさい拒んで、母の強さで凛とたたずむ。
何分かの後、東の上空にしばらく鼻を突き出していたが、やがてゆっくりその方向の藪の中へ消えて行った。人間には全く聞こえないが、厚く積もった雪の下のヤチネズミのわずかな動きさえ聞き分ける驚異の能力で、ギャンギャンと母を呼ぶ子ギツネの声を捉えたのだろうと思う。
だいたいの見当は付いている。直線距離でおよそ300メートル。人間にとっては猛烈な藪を漕いで下っていった河原の近くに巣穴はある。
ちょっとだけ様子を見たい気持ちもあるが、余計な刺激になってはいけない。子供たちが無事に大きくなるようにだけ祈って、知らん顔を繕おう。