今から半世紀も前、初めて十勝平野を見たのは狩勝峠の上からだった。
当時、札幌から道東へ向かうには12号線を北上し、赤平、富良野と38号を進み、狩勝を超えて東進するのが一般的なルートで、日勝峠はまだ曲がりくねった狭い砂利道だったし、襟裳岬を回り込む黄金道路が完成を見るにはもっと時間が必要だった。
それほどキツくは無い峠道を富良野側から昇り詰めると、いきなり前方が崖となって切れ落ち、視界にはその果てを霞に消して十勝平野が広がっていた。雲間から差し込む太陽光線が平原のあちこちに光のスポットを落とし、映画で見た天地創造を連想させたのを、今でもはっきりと覚えている。
爾来、どれだけ十勝への道を走ってきたことか。10年ほど経つと日勝峠が主要なルートとなり、始めのうちは千歳から早来、穂別、日高を経由。やがて石勝樹海ロードが開通すると夕張から日高経由になり、道東道の開通によって、どちらの峠も経ることなく長いトンネルを抜ければそこが十勝というように変わった。
冬の晴天の強烈な冷え込み、太陽に焦がされる暑い夏。それでも時々現れる屏風のような防風林を後ろにしながらどこまでも真っ直ぐな道、牛たちが草を食む牧場のずっと向こうに白く光る日高山脈、そんな明るい十勝がそこにあることが嬉しい。
鹿追、然別、糠平もいい。更別、忠類、広尾もいい。インデアンカレー、ランチョエルパソ、麦音ますやのある帯広もありがたい。
かつては、植村直己さんが生前関わった八千代の冒険学校を手伝いに何度も通ったし、ニペソツの頂上で星空を見たり、冬は犬ぞりで秘湯を訪ねたりもした。年齢と共にアクティブな旅はしなくなったが、先日はばんえい競馬を楽しんだし、温泉に泊まって十勝平野に昇る朝日も見れた。次に帯広へ向かうのはいつになるだろう。