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哀しい人々

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何年か前に「国家の品格」という新書がミリオンセラーになった。 新田次郎氏と藤原ていさんのご子息の、作家でもない藤原正彦氏の講演録という意外性から手に取り、そして一気に読み終えたのを記憶している。 その新書は知人に廻したので、いま読み返すことはできないが、この時代を生きる我々がどこかに置き去った日本人の心根の潔さや、清貧の思想こそが世界に誇れる質の高さなのだと、改めてこの時代に正論を展開されていたように記憶する。このところの政治家達の振る舞いや言動にふれて、この「国家の品格」という言葉が哀しく脳髄にこだまする。 円安株高に調子付いて安倍さんが口にした一言が、近隣諸国の傷口に塩を擦り込んだ。 「我が内閣はどんな脅しにも屈しない」とは何に対しての言葉なのか。中国や韓国で反日感情が高まり、理不尽にも日系企業が焼き討ちにあったり、日章旗の焼き捨てや日本製品の不買が起きたりすることは確かにある。だがそれは一部の国民が暴発することで(政権批判をかわすための黙認との見方もあるにはあるが)、国家を代表する首相の発する言葉とは信じ難い。 「先の侵略戦争によってとりわけアジア諸国に・・」という村山談話や河野

ギョウジャニンニク

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窓の外の景色の片隅に残っていた雪が今日やっと消えた。 遅い初雪だった去年の11月から一度も消えることなく、ずっと土の上に乗っかっていた白いヤツが視界から去った。 同時に今日の朝、史上2番目に遅いというサクラの開花宣言が札幌に出された。サクラが開花といってもそれは街中のことで、工房周辺のエゾヤマザクラは蕾さえ固いままだし、日陰の軒下にはまだたっぷり雪が残っている。それでも、笹薮の中のギョウジャニンニクの、朝露に濡れる柔らかい緑を見て、気分はきっちり春に切り替わった。このギョウジャニンニク。誰が何と言おうと北海道では春の山菜の王様・横綱・大統領。 同じものは東北や信州の高地にもあるが、上品な器に数本鎮座してン千円もする貴重品らしい。 さすがに最近は北海道でも都市部周辺で見つけることは困難になったが、人手のあまり入っていない沢や斜面を探すと鎌で刈り取るほど群生していることもある。 タラの芽やフキ、ウド、ワラビ、たけのこなどが春を満喫させてくれる前に、道産子はコイツの強烈な香りを体内に取り込んで冬を振るい落とす。おひたしや卵とじなどの定番メニューもあるにはあるが、ジンギスカンや焼肉の付けあわせ

つらくね?20代

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<つらくね?20代の現実> ・・去年のいつ頃だったか、確かそんなタイトルの特集記事を新聞で見たような気がします。安倍総理をはじめこの国の大人達は「経済成長よ再び」と、頭の隅にあの高度成長期の記憶を映しているようですが、いまの<20代>は、昭和が平成に替わり、バブル経済が破綻してからの空白・沈黙・後退の時代に生まれそして育ってきました。この世に生を受けた瞬間から身に覚えの無い借金を背負わされ、それは今でも増える一方。人口構成比でキノコの笠のようなオヤジの世代を見送るまで、細い石突のような若い世代が支えなければなりません。税金のかたちで、死ぬまで借金払いを続けるのは覚悟の上としても、この国はそれまで崩壊せずにバランスを保てるのでしょうか。オヤジ達は言います。「なんだかなあ。若いのに覇気が無いんだよ。スマホばっかりイジッてないでもっと若者らしく元気出せよ。例えばァ?例えば海外に出ていろんな体験してくるとかさあ。行く気になればどこでも行けるじゃねえか。少々円安になったって1ドル300円だった俺たちの頃に較べりゃ天国だ。」 「んじゃ、将来の夢とかさ、これだけは絶対誰にも負けないって自慢できる趣味

水面を撫でる風

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この10日ほどの間に雪解けはハイスピードで進み、北国の里山にもやっと春らしい空気が充満し始めました。 温もりのある風が水面をやさしく撫で、待ちかねていたミズバショウにみじかい時の時を告げています。 雪の白さだけが主役の冬の半年が終わり、これからあらゆるものが膨張する夏の半年が始まろうとしています。それにしてもこの冬を思い返せば、かつてないほど記録づくめで厄介な半年でした。遅れてきた初雪がもたらした大雪はそのまま根雪になり、一度も解けずにまるまる5ヶ月以上も白い世界が居座りました。年末から1ヶ月以上も続いた氷点下の真冬日。2月後半からの記録的な大雪。何人もの犠牲者をだした暴風雪。さらに雪解けを遅らせる春の低温。我が身に於いてもこの冬は、歳が明けてからはスノーシュー製作に追いまくられ、知人の子供に約束したキッズパルクも作られず、春の強風で艇庫の屋根が吹き飛ばされ、おまけに車の夏用タイヤを2台分も盗まれ、踏んだり蹴ったり(踏まれたり蹴られたりの方が正しい)の半年でした。いよいよ春を迎えるというのに、肩を落として下を向く自分を、「まあ、無理もない」と見下ろすもう一人の自分がいます。このところ

遅い春

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冬も半ばを過ぎてからの大雪と低温は、4月後半になってもまだ春を押し留めて、容易に季節を進めようとしない。 南向きの斜面や道路上の雪は解けたが、日陰や窪地にはまだ気が滅入るほどの雪が残っている。雪の下だった枯れ野が一冬越した姿を現した。 地上から1メートルまでの、全ての若木の樹皮が白く剥がれている。暗く覆われた地表と積雪の間に、エゾヤチネズミ達の春を待ちきれず飢餓に喘ぐ混沌の街があったのだ。 画像では見えないが、土と雪の間には草を食い尽くしながら進んだトンネル状の跡が縦横無尽に残り、あちこちにクルミの殻が散らばっている。 秋のうちに巣穴に大量に貯め込んだドングリを喰い尽くし、湿度100%の雪の下を這い回って草を喰いクルミを探し、待てども見えない春に、とうとう木の皮を喰うしか命を保てなくなったのだ。伐採跡の荒地にワッと出てきたアカシアのひこ生えは、樹皮を食われて芽吹くことなく全てが枯れてしまう。アカシアばかりではない。大雪だった今年、たくさんの種類の木がネズミやエゾシカに樹皮を喰われて痛々しい姿を野山に晒す。 雪の上で暮らすユキウサギやエゾシカは、まず口が届く範囲の若枝や冬芽を広く移動し