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ムラサキヤシオ

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雲間から太陽が顔を出すと、晴天を待っていたエゾハルゼミたちがそこかしこであわてて鳴き始め、やがて山を覆う大合唱となって大地にしみ込みます。 そんな大音量のBGを突き抜けるように、鳥たちのさえずりが響き渡っています。この地に留まって厳しい冬をやりすごした留鳥も、遠く南方から繁殖のために戻ってきた夏鳥たちも、恋の季節のこのときの為にだけ必死で生き抜いた一年間です。小さな鳥たちの渾身の力が、強く澄んだ音であらゆる方角から森の中を飛び交います。出そろった若葉が日に日に勢いを増し、山全体が緑濃くなるこの頃、山道の脇や崖の途中に濃いピンクの花が見る人の足を止めます。八回も染め上げた紫という意味のこのムラサキヤシオが見かけられるのは、高山ではありません。かといって里山で見かけることもあまりありません。札幌近郊でいえば、500Mから1200Mくらいの、まさに<山地>という環境でよく見かける山のツツジです。 長い年月を掛けても人の背丈ほどにしかならず、一年の半分ほども雪に押し倒されたままだというのに、春から夏にむかうこの季節に人知れず自己主張するこの紅い花になぜか惹かれます。

食欲直結

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この10日ほどの間に、濃縮凝縮の春が猛スピードで走り抜け、里山はいっきに初夏の装いに移ろってしまいました。 コブシもサクラもすっかり花びらを落とし、枯野の景色を作っていた全ての木々は、それぞれの枝先から今年の若い葉を拡げ始めて、一日ごとに緑の密度を高めます。 工房の前の笹やぶの中の、それこそ猫の額のような空間に、ことしもギョウジャニンニクがいっぱい生えてきました。北国の生活者にとって絶対に欠かせない春の味。春旬鍋に卵とじ、おひたし・焼肉・酢味噌和え、ラーメン・チャーハン・ジンギスカン、そのままでよし混ぜて良し、さらには漬け込んだり冷凍したりもまた重宝と、ざっと思いつくだけでも手足の指では足りません。日陰に芽吹く濃い緑を目にすると、<食べたい>というよりも、無性にそのパワーを体内に取り込みたくなるのです。

いそがしい春

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遅い雪解に気は晴れず、「このぶんなら5月の連休まで雪が残るなァ」と、ヤケになりかかっていたのです。 ところがどうしたことか、月の半ばを過ぎたあたりから昼間の気温がぐんと上がり、振り返ると110年ぶりの記録的な晴れ続き。 昼も夜も、猛烈な勢いで雪が解け、今では日陰に残った白いヤツが寂しく最後の見得をきっています。2週間前の景色がウソのように原野がざわつき始めました。そもそも北国の春にはきっちり決まった順番があるのです。 まだ山野が真っ白でも、住宅の庭にはまっ先にエゾムラサキツツジの紅紫の塊りが冬の終わりを告げるのです。続いて水音の聞こえ始めた沢沿いや湿地にミズバショウが顔を出し、いっときの間を置いて陽当りの良い南斜面にカタクリやエゾエンゴサクが萌たちます。さあそうなると春はいよいよ加速度を増し、山肌にはキタコブシが白い水玉模様を作り、そして1週間ほどで「まってました!」の真打登場。そう、サクラの季節が始まります。いやいやこれは例年ならという話。先週撮った工房そばのミズバショウの白は、グングン伸びる緑の葉に隠れて見えなくなりそうです。キタコブシは開花から二日で満開になり、コブシの散るのを

またまた 元気な人

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続いて気にかかる元気な人は、東京大学名誉教授の月尾嘉男氏だ。都市工学の権威にして交通工学にも秀で、全国の道路網に張り巡らされたNシステムの生みの親。まだコンピューターが大型だった頃に、世界で初めてCG(コンピューターグラフィック)を作ってみせた人でもある。 学者にありがちな偏狭さとは正反対に、博識と情熱とニュートラルな立場で説く世界観は聴く人の共感を誘い、つぎつぎと目からウロコを払い落としてくれる。 小泉政権でブレーンを務めたあとは政治の場からは一歩退いたが、その人望ゆえか、地方の政治家や財界人らから私塾を開くように求められ、全国各地に<○○自然塾>の名を冠したゆるい集まりを持つ。背広にネクタイ姿しか他人に見せないような地域の重鎮たちと、ときには焚き火を囲み、ときにはカヌーで川を下りながら、人間や社会を新鮮な角度から酒盃に映し出す。ウォーターフロントに建つ超高層マンションの自宅から東京湾を見下ろしているかとおもえば、パプアニューギニアの奥地で未開文明に素手で触れてきたり、アフリカの生態系に目立った変化があれば、それを取り上げてその傾向と対策を掌に拡げて見せてくれたりする。毎週木曜日の朝

元気な人 その2

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セーリングカヤックの開発に奮闘しているN社長に、直接会って確認したいことがあってK社に電話をかけた。 「申し訳ございません。今しがた帰宅致しました。」 ・・って? 早いな、5時前なのに。 部長が代わって、ほんのちょっと当惑気味に話してくれた。なんでもこのところまだ暗い4時頃から出社してきて、たったひとり工場の奥の専用スペースで仕事をしているのだそうだ。セキュリティー会社との契約は午前7時なのに、無理に頼んで暗いうちから解除してもらっているという。「わかるっ!」 心の奥に共振するものを感じて、思わず大きめの声になってしまった。俺もそうだもの。 同じ<ものづくり屋>として、ジッと寝てなんかいられないんだよねNさん。 夢の中なのか、それともどこかで覚醒しているのか、そんなことどうでもいい。新たな形状を思い描き、動きや軌道を想像し、作業の手順を組み立てる。眼をつぶったまま繰り返し繰り返し考えていると、無意識のうちに身体を起き上がらせる力に取り付かれる。こうなるともう、メモや簡単な絵に描きとめてまた眠りにつくなんてできはしない。 家人を起さないようにそっと仕事場へ向かい、夢中で夢の中のイメージを