Blog

早春のエフェメラル

記事イメージ

日陰の一部を除いて野山からやっと雪が消え、枯れ野に可憐ないのちが萌えはじめました。 萌黄色のふきのとうをバックに、春の空のようなエゾエンゴサクの淡い青が風にゆれています。 すぐ近くの湿地にはミズバショウが白むく姿を競っています。 このミズバショウや、写真には見えませんがエンジ色の衣を纏ったザゼンソウは、冬籠りを終えたヒグマにとって大切な食べ物らしく、毎年この時期にはヒグマがこの根の苦みで宿便を出して腸の調子を整えに来ます。 ただ、どうしたことか今年はまだこの湿地に姿を見せません。 掘り返されたり踏み荒らされたりしないのでミズバショウはきれいですが、すこし淋しい気もします。

金子みすゞのやわらかいちから

記事イメージ

金子みすゞの名前は知っていました。といっても、何かのCMで使われていた<大漁>という詞の作者だというだけのこと。金子みすゞ本人について、それ以上のことはついこのあいだまでほとんど知りませんでした。 朝やけ小やけだ 大漁だ   おおばイワシの 大漁だ  浜はまつりの ようだけど   海のなかでは 何万の  いわしのとむらいするだろう 山口県の萩市を訪れたあと、このさき向かう下関への道路地図を目で追っていて、まったく偶然<金子みすゞ記念館>の小さな文字に目がとまりました。洋上のアルプスとも呼ばれ絶景で有名な青海島のある、以前にも何度か訪れた長門市仙崎の街の中でした。 みすゞが幼少期を過ごした生家の本屋が、大正時代のままそこにあって、それがエントランスに使われています。居間や台所や井戸端など、ひとつひとつの遠い時間の空間にみすゞの童謡がしずかに掲げられていました。 文学的素養のある大人の手によるものではありません。子供の素直な目と、空から優しく見下ろす天使の透視力をもって、すべてのものに宿るこころを紙の上にならべて見せてくれます。 だれもが気付かない道端の景色や空や暮らしを、力みのない子供の

知覧特別攻撃隊

記事イメージ

九州鹿児島は桜島を挟んだ西側の薩摩半島南端、指宿から薩摩半島を回り込んで西に向うと、やがて富士山よりも端正と云われる開聞岳が左手に立ち上がる。その姿が見えなくなるころ北へハンドルを切ると頴娃(えい)町へと入り、道路の両側は見事な茶畑が続く。これが有名な知覧茶か。同じ茶の木なのに、茶どころ静岡のみどりよりもこころなしか力強い感じがするのは南に位置するせいだろうか。 さらに進むと案内板が行く手に知覧町を示す。 町界をこえて知覧に入ると、道路の両側の歩道を仕切る植え込みに等間隔で延々と並ぶ石灯籠。神社の参道のような厳かなるべき道をクルマに乗ったまま走る違和感をこのとき覚えたのだが、納得できるまでそう時間が掛かった訳ではない。知覧特攻平和会館の案内標識でたどり着いた広い駐車場は、想像を超える台数のバスや車両で混雑し、警備員の笛の音が歩行者を急かせていた。 ほとんど予備知識を持ち合わせないまま訪れたのだが、なんとなく無言の見学者と止まったような時間をイメージしていただけに、たくさんの外国人を含むこれほど多くの入場者の喧噪には圧倒されそうで思わずたじろいだ。カミカゼの名で世界に知られる陸軍航空隊特

やっぱり<夢街道>

記事イメージ

久しぶりに腹いっぱい長距離を走って、40年以上も昔のトラックを転がしていた頃を想い出した。 東名と名神はつながっていたが、そのほかの高速は完成を見るまでにもうしばらく時間を要していた頃だ。 もちろん東北道も常磐道も形になっていないから、札幌から函館まで5号線を行き、青森でフェリーを降りたら東京まで4号線か6号線に乗り、寝ずに走ってもまる1日以上を要していた。 昼間の国道は混むからもっぱら夜中に走る。景色なんか見えるわけも無い。ひたすら道路の白線を追い、交通標識にちょっとだけ目をやってやりすごす。 そんな暗闇を照らすヘッドライトといつも一緒だったのは、ラジオから聞こえてくる深夜放送の演歌や歌謡曲だ。ふだんはR&BやRockしか聞いていなかったし、実際にヘッ演歌なんてと馬鹿にしていたが、田舎の夜道で気の利いたFMなんかはいる訳がない。そんな夜中の運転以外ではゼッタイに聞くことがないど演歌だったが、無遠慮に頭の奥に滲み込んできたものだった。今回は夜中に走るようなこともあまりなく、日本中に張り巡らされた高速道を無機的に走ることが多かった。 快適なドライブにはやっぱり<イージーライダー>の挿入歌

ニッポン人が食ってるもの

記事イメージ

仕事ではなく全く私的なことなのだが、九州は南の端まで5千数百キロを走り倒してきた。 行く先々で、当然のことながら食事時になればなにか美味いもんにありつこうとする。 できれば、せっかくだからウワサに聞いていた、あるいは事前にネットで調べた名物など、普段と違う食事を楽しみたい。 グルメ情報誌などを片手に、ナビとにらめっこしながらでも堅い決意でお目当ての店を見つけ出す気概と時間があれば別だが、まあフツーは道路沿いの看板やネオンを認めてブレーキを踏みハンドルを切ることになる。振り返って想うに、日本中何処へ行っても似たような道路沿いの景色。 どこでもよく目立つ回転寿しとラーメン屋はその土地ごとにネーミングが違うが、高い位置でゆっくりまわるでっかいMの字、にこやかに立ってるカーネルサンダースおじさん、CocosやGustなどの見慣れたファミレス、それに全国で何百店舗あるかわからない吉野家、すき屋にCoCo一松屋。この国の国民は、北から南までほとんど同じ味の外食に馴らされてはいないか。寿司、ラーメン、チキンにカレーにハンバーグ、うどん、牛丼、スタバのコーヒー・・。 それぞれのチェーン店はそれなりに戦