
庭から見上げる夜空は、これまで見たことがないほど不気味に美しかった。家々の明かりも街灯も、遠くの高層ビルで瞬く赤い点滅灯さえも消えて、190万都市札幌が夜の闇の底に沈んでしまった。全ての人工の光りが失せた北海道の上空からは、無数の星が眩しいくらいに地上を照らしつけ、ふだんは薄黒くしか感じられない雲が、星空に白く浮かびながらゆっくり流れて行った。9月6日、夜中の3時8分にその地震は起きた。 砕石工場の巨大なフルイに突然投げ込まれたような衝撃に、跳ね起きると同時に暗闇のなか枕元のタンスを押さえる。タンス自体は金具で壁に固定してあるが、上方3〜4段の引き出しが意思でも持っているかのように飛び出そうとする。揺れが納まるとまず電灯をつけて妻と母の無事を確認。 割れた花瓶のガラスを集め、足許に落ちて散らばる何やかやを拾い集めているときにその暗闇が来た。 懐中電灯とラジオを見つけ出し、停電がウチだけなのか、地域全体のことなのか、周囲の状況を確かめようと庭に出たときに冒頭の星空を見ることになる。その時点でのラジオの速報は、震源が苫小牧東方であること、津波の心配は無いこと、今後しばらくは激しい揺れに注意