所用で上京した折りに、ホテルが近かったこともあり、むかし時々のぞいた本屋を訪ねてみようと思った。
本棚の片隅に処分できずに積み上げたままの1冊を見つけたのがきっかけだった。
古い本を見つけて懐かしい気持ちになることはあっても、それを買った本屋まで覚えていることはめったにない。しかし、買ってから半世紀近く経つこの本は、表題がショッキングだったからか、それを手に取ったときの様子まで今でもはっきり想い出せる。
新宿駅西口の小田急デパートから、西口交番や小田急ハルク方面に向かって一旦地下広場におりる階段の脇にあった本屋。
ちゃんとした書店というよりも、踊り場のようなスペースを有効利用した、週刊誌や雑誌がメインのちいさな店だった。
すぐに見つかると思っていたが見当たらない。建物や構造が変わっている訳ではないので、記憶をたどってそれらしい階段を何度か上がったり降りたり。
どうやらその場所はスイーツ屋さんに変わっってしまったようだ。
「これだけ年数が経てば当然だ。まして今では全国民が電波に絡めとられてスマホから目が離せなくなったとなれば、本屋も雑誌も続くわけないか。」と思いつつ、ほんのちょっぴり淋しさを引きずりながら<思いで横町>の雑踏をくぐってホテルへ戻ることになった。
ところでこの本。キュブラーロスという精神科医が、主に死を前にした人の心理の変遷過程を研究した当時としては珍しい本だったが、なんと今でも医学生や看護師の教材として使われているという。
これを読んだ若い頃、想像は出来ても実感は持てず、へえ〜というかんじだったと思うが、いまパラパラとめくったページに目を落とすとなるほどと同感できる文面がならび綴られている。
この歳になったからこそ、ものの奥行きが推し量れるようになったのかもしれない。
小さな活字が苦手になったこの頃ではあるが、できればもう一度読み返してみたいと思う。
羽田空港にて 出発時間待ちに・・。