なんとなくバタバタと日々を送るうちに立冬も過ぎさり、山肌はすっかり冬枯れの無彩色になりました。
先月までの叩きつけるような氷雨やみぞれは今月になって硬いあられになり、11月も半ばの今日、窓の外には小さくちぎった白いわたのような雪がゆっくり舞い降りています。
近づいて来る気配を感じていた冬の足音は、いつのまにかこの空と土地に座り込んでしまったようです。
どんどん日の入りの時刻が早まり、夕方の5時を待たずに工房の周囲が暗闇に包まれる頃、その深く黒い空気を切り裂くようにエゾシカの鳴き声が響き渡ります。
逃れようのない心細さや、耐えるしかない淋しさと哀しさを音にして、若い牡鹿が虚空を見上げ、ピイーーーーーユーーーッ!と振り絞る叫び声ほど哀切な鳴き声を知りません。
この数年、生息数を増やして来たこのあたりのエゾシカですが、厳しい冬を乗り越える為でもオスどうしが群れを作ることはありません。磁石のN極どうしがくっつくことがないように、お互いに付かず離れず、鳴き声と目視で生きていることを確認しながら、雪の中に立ち込んで長い冬を耐え抜きます。