色づいた木の葉はわずかな風で落ち始め、柔らかい斜光に雪虫舞う季節になりました。
毎年のことですが、この時期にはありとあらゆる虫たちが越冬の準備に入ります。
木々の根元に潜るもの、樹皮の隙間に潜むもの、卵に次代を託して死に果てるものと、それぞれにさまざまな越冬のかたちがありますが、里山に近い家々で話題になるのがカメムシでしょう。
大量に発生すればするほど、その匂いで厄介者にされるカメムシですが、カメムシはカメムシでも、関心を持ってよく見ると不思議なことに毎年その種類が変わります。
今年の主役カメ君は写真のチャイロクチブトカメムシで、これといって特徴のない地味なやつばかりが越冬客の大半です。
小ぶりで黒っぽいスコットカメムシだったり、緑色のエゾアオカメムシだったりと、その年によって違うのはなぜなのか。それはその夏の昆虫社会を振り返ってみれば、なるほど結果論として納得がいくのです。
カメムシ目の仲間は非常に多く、セミやヨコバイ、アメンボやミズカマキリなどもその仲間に入りますが、その強烈な匂いで身を守る(これは決して攻撃ではなく、鳥についばまれて自身が死ぬことになっても、二度と仲間に繰り返されないようにとの自己犠牲的な種の防衛と云われます)カメムシ科のカメムシはアブラムシなど他の昆虫や幼虫を食べることで知られています。
振り返ってみるとこの夏は、クジャクチョウ、タテハチョウ、シジミチョウ、セセリチョウなどの蝶類が極端に少ない年でした。工房の周辺に群生するイラクサやクマザサを食草とするこれらの蝶は、それら鱗翅目の幼虫を食用にするこのチャイロクチブトカメムシをして大発生させることになったようです。もちろん他にも気温や雨量などの天候も重要なファクターでしょうし、もっといえばその前年の条件なども無関係ではありません。
また、大量に越冬したとしても、次の年の主役がまた張れるかというと、何故かまずそれはないのです。
さまざまな自然界の要素は、人間などの知識の及ばぬバランスをもって生物の営みを続けていくのでしょう。