我ながらなんとも不謹慎な話ではある。
妻が困難な手術で入院中に<食べ歩き>を書こうとは。
安直にススメとしたが、ほんとに薦めている訳ではなくて、まあ、云うなれば期限付きチョンガーの食事録というところか。
非常時である。老いてなお気丈な母や近所に住む息子の嫁、それに嫁いだ娘までもが不自由なオッサンを気遣ってくれるので、その好意を拒絶するようで甚だ恐縮ではあるが、申し訳ない、今回は好きなようにさせていただこう。
普段でも、『今日は外食にしようか?』という場合に、『さあどこにしようか、思い付かない。』ということがよくあるので、『この際だから(何がこの際だからか)あちこち開拓してみよう!』が動機だった。
この3週間ほど、毎日(?)仕事を終えてから病院に向い、顔色など確かめた帰路『さあ、なにか食って帰ろう。』とする。
ところが案に相違してこれがそう簡単ではない。本でもネットでも世にグルメ情報はこれでもかというほど溢れまくっているが、まずクルマが駐車できる店舗が限られる。地下鉄やJRの駅周辺に集中する魅力的な飲食店や居酒屋はその点でまずアウト。かねてより駐車可能であることを知っている店以外に、クルマで行って大丈夫なのはほぼフランチャイズ店のみ。幹線道路沿いには大きな看板の、回転寿し、焼肉屋、ファミリーレストラン、それにラーメンやうどんの店も結構ある。しかし運転中で呑めない身に寿司や焼き肉は辛いだろう。ファミレスも多くの場合ドリンクやサラダなどがバー形式になっていて、オッサンが一人でライスやスープのお代わりを取りに並ぶ図は、何やら侘びしい感じで気が乗らない(自意識過剰との声もあるが)。
夕食である。ラーメンやうどんを一杯というよりはやっぱり米の飯が食いたい。吉野家やなか卯といった和食系ファストフード店は早くて安いが、そう度々では飽きがくる。
結構いろんな店を物色したつもりではあるが、自分の中でリスト入りした店はそう多くない。やっぱりいつ行っても安心なとんかつ屋、値段のわりに定食の旨い中華料理店、気を利かせてライスの盛りを良くしてくれる和定食屋、それとカレーの良い香りがする洋食屋・・。そんなところか。
外食ばかりでは栄養が偏って身体に悪いとみんなが言うが、そうとばかりでもない。
意外な効用に気がついた。満腹で帰宅してから一人で晩酌する気にもならないことが多くなって、なにより酒量が減ったのだ。
そしてもう一つ。何も言わなくても風呂から上がるとテーブルに食べ物が並べられる日常が、なんとシアワセなことか。