あれはまだ国鉄の頃だったろうか、それともすでにJRに移行していたのか、山口百恵が歌う<いい日旅立ち>をテーマに、デイスカバージャパンのキャンペーンがその頃この国を覆い包んだ。たしかフルムーンというワードもその頃から使われ出したように思う。
そのころは、そんな世界はあまりに遠すぎて、自分にはまったく関係ないとさえ感じていたのだが、いやいや、知らない間にそのフルムーンの歳になっていたとは・・。
決して直線ではなかった。文字通り<曲がりなり>に子育てを終え、身体のあちこちに軋みが目立つようになった今、ふと歩みをゆるめて旅行にでも行ってみようかという気になった。「40年ぶりだね、ふたりで旅なんて。」と話しかける家人の声が、年齢以上に軽やかだったからだ。
40年はオーバーだが、ふたりでアメリカ大陸を4万キロも旅したのは、子供が産まれる前だからもう38年もの昔になってしまった。
そして昨日、6日間の旅を終えて夏のシドニーから吹雪の札幌へ戻ってきた。
もう何年か前なら、返事もせずに首だけを横に振ったと思う。「旅行会社のツアーなんてそんなもの旅じゃない!」と、相手の心さえ見ないようにしながら、自分自身の義務感から手を離すことができなかった。
少し疲れはしたが、出かける前には無かった小さくて暖かい時間の手応えを、今はたしかに感じている。