自分自身の深〜いところから、メロディーのかけらのようなものが姿をチラつかせる。
2度ほど鼻でなぞってみると、何処かで聞いたような曲がつるつると出てきた。何の曲だったかどうしても思い出せない。仕事をしているときや車の運転中にも、鼻腔の奥でしばらく勝手に繰り返されたあと、とつぜんモノクロの情景と共にタイトルが甦った。 映画だ!<ブーベの恋人>だ!
ひとしきりメロディーをなぞって納得した後からは、次々と昔の映画音楽が溢れ出してきた。哀愁に満ちた<鉄道員>のテーマ、<第三の男>のチターの旋律、<黒いオルフェ>のテーマ、<太陽がいっぱい><男と女><慕情><禁じられた遊び><三文オペラ><夜の訪問者>・・・、鼻歌に口笛にとめどない。とめどない。
ジョン=ウェインが若かった頃の西部劇、それからマカロニウエスタンのテーマ、<戦場に掛ける橋>や<史上最大の作戦>の主題歌、007の挿入歌だった<ロシアより愛をこめて>や<ゴールドフィンガー>。映画を超えるほど美しいメロディーを作るフランシス=レイや、スペクタクル巨編に更なる力強さを加えるモーリス=ジャール。<小さな恋のメロディー>のビージーズや、<卒業>の中で使われたサイモン&ガーファンクルの名曲たち。
ふだんは手を伸ばしても届かないほど奥の奥に、こんなにもたくさんの記憶が仕舞い込まれていたのかと驚きつつ、何十年も経って湧き戻るメロディーと画像の断片に幸福な時間をもらう。
しかしこうして浮かび上がってくるのは、みんな10代から20代までに見た映画ばかり。
<ロッキー>や<タイタニック>のテーマを知らない訳ではないけれど、いまひとつ味わいが物足りないのは歳をとって感性が鈍ったせいだろうか、それともまろやかな幸福感で味付けされるにはもう少し年数が必要なのだろうか。
ともあれ、「いやー、映画音楽って、ホントにいいもんですねぇ」