雪が消え、いっせいに草花が萌えだしてきた窓の向こうに、久しぶりにキツネのカップルがまどろんでいた。
穏やかな日差しと、ゆっくり移動する春の空気を楽しみながら、子育ての疲れをいたわり合うように、ときどき緩慢な動きで愛撫を繰り返す。
去年の今頃、ルルの乳首の周りは子供達の鋭いツメで毛が抜け落ち、血が滲み出していた。目つきも鋭くなって見るからにやつれ、人間なら髪振り乱してという様子だった。
今年も下腹の毛は薄くなり、乳首が赤く膨らんではいるが、去年のような悲愴感は身に纏っていない。産んだ子たちに授乳させているのは間違いないが、どうしてこれほど穏やかなのか? 去年は初めての出産だったが、今年は経験と自信がそうさせる? それもあるかも知れないが、今年のオスが育児に協力的というのも一因ではないか。去年のオスは交尾期にチラッと見かけただけで、その後は一度も目に触れることが無かった。初産のうえに単独での子育てはさぞ大変だったろう。
繁殖期のペアリング成立時からこれまで、ルルとショーンはいつも連れ立っていて、おそらく今は巣穴に残る子供たちの育児も協力し合っているのだろう。
もう少しして、子たちが巣から出歩くようになると、そろって巣を空けることなどできなくなる。
ほんのひと時かもしれないが、心が温かさで満ちるまでゆっくり過ごしていったらいい。
なんだか、キツネのカップルを見続けながら、その向こうに人間が浮かんで見える。