大雪の影響は4月になってもまだ続き、例年の里山歳時記からしても半月はゆうに遅れていて、道路以外はまだ一面の雪景色。いつもの年なら今頃は口にしているはずの山菜たちもまだ暗い雪の下。
週末の暴風雨で積雪はかなり減ったし、5月の半ばまでには暦の遅れに追いつくということを判ってもいる。それでも今はまだ、窓の向こうの景色のどこにも、はずむような春は見つからない。
景色は冬のままだが、聞こえる音は春の騒がしさに変わってきた。明るい林に鳥たちが戻って来たのだ。毎年一番乗りのアオジのように、小さな体で遠くインドシナから戻って来たヤツもいれば、もの言わずジッと冬を耐えてきたゴジュウカラやシマエナガも元気な姿を見せ始めた。
見通しの良い森の中には、小さいけれど明るく張りのある小鳥たちの地鳴きが満ちている。恋の季節はまだまだなので、謳いあげるような囀りではないが、春を迎えた安堵と希望に声も膨らむ。
大きい鳥たちも黙ってはいない。ミヤマカケスたちがリャーリャーと鳴き交わせば、ピューイッ!ピューイ!とヒヨドリがはしゃぐ。
この森でいちばん大きな声の主はクマゲラだ。毎年のように数が増え、何をするにも無頓着に大きな音を出す。木の幹に縦にとまり、大きな嘴でコンコンとノッキングしながら少しずつ移動する。その移動の際にときどき漏れる地の声は、キョッツ、またしばらくしてキョッツ、だが、鳴き声はそんな穏やかなものじゃない。キョーーン!キョーン!キョンン!キョン、キョン・・と、だんだん尻すぼみにトーンを落とすのだが、最初のキョーーンはびっくりするくらい大声ではじまる。
水切りといえば分かるだろうか?そう、静かな水面にアンダースローで平らな石を投げる遊び。あのリズムと同じような感じで、初めは強く弾み、徐々に勢いを落として、最後は口ごもるようにフェードアウトさせる。
飛び立って移動する時には、羽ばたきと滑空の波型飛行に合わせてやさしい声でキョロロキロロ。そして塒に戻ると、一旦近くの木に止ってひときわ大きく、キューーイッ!キューイッ!と必ず二鳴きして周りにご帰還を宣言する。
遠くからときどき聞こえる救急車や上空のヘリコプターの音とは違って、自然界の音はうるさくはあっても気分の邪魔にはならない。
同じ場所で暮らすもの同士、気のはやい鳥たちの声に元気をもらおうか。