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ラスカルの末裔

暗くなってからの帰り道、ヘッドランプの灯りの中をアライグマが横切った。最後に見かけたのは確か5〜6年前だから、記憶の中でもう過去になりかかっていた。

20年前にこの山の工房に移ってきた頃は、キョトンと見上げてはトコトコと歩き去るエゾタヌキが近くに何頭も棲んでいて、その辺の窪地にいくつも溜めグソが見かけられたものだった。
それから数年の後、里山の平和な時間に異変が訪れる。
急速に生息範囲を拡大してきた外来種のアライグマとエゾタヌキのせめぎ合いが始まったのだ。

アライグマの生息情報は、30年くらい前に恵庭市の郊外から出始めた。真偽は定かでないが、当時の「あらいぐまラスカル」のアニメが影響して、ペットショップでアライグマが売られ、大きくなると獰猛さをみせる性質を持て余して誰かが放したのが始まりと言われている。夜行性で雑食悪食を武器にあれあれという間に道央圏一帯にはびこり、今世紀初めにはその生息圏をほぼ全道に拡大した。
畑の野菜や果物、川魚、人家わきのゴミから、養鶏場の鶏や産後の牛から出る胎盤まで、およそあらゆるものをパワーにしながらの、異国の地での大奮闘。
自治体単位の対策ではお手上げ状態となり、道庁環境課が専任者を置いてカゴ罠を用いた害獣駆除に乗り出した。

生息環境が重なるエゾタヌキに災難が降りかかったのは言うまでもない。2〜3年のうちにすっかり駆逐され、全く見かけることが無くなった。小型で鈍くさいエゾタヌキに代わって、黄色と黒のフサフサしっぽのアライグマにたびたび遭遇するようになり、農家の防護ネットに引っ掛かって死んだヤツを頼まれてはずしたり、道路脇で2頭の幼獣を保護したのもこの頃だ。

担当者の粉骨砕身の努力が実を結び、アライグマ生息の痕跡が見られなくなった数年前から、絶えて久しかったエゾタヌキが復活した。卑屈な表情で下からすくい上げるように見上げる表情と、俊敏さのかけらも無い緩慢な動きだが、もともとあった自然環境が戻ったということなら、それはそれで良かった。そう思っていたところに今回のアライグマの目撃。

人間の手による完全な駆逐はなかなか難しいということか。
必死で捕獲圧に耐えて生き残っているアライグマよ、悪いのは人間だ。おまえは何も悪くない!

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