長年にわたって放置され、昼間でも林床が薄暗いほどうっそうとした森の中は動物たちの世界。 縦横にケモノ道ができている。
まるで鼻歌でも歌うかのようにその森から工房前の草地に出てきていたルルが、近頃は立ち止まって様子を窺い、安全を確認する動作を見せるようになった。
決してその姿を見せることはないが、どうやら2頭か3頭の子ども達を連れて来ているようだ。子ギツネたちも大きくなって、いつまでも巣穴のそばでジッとしてはいられない。徐々に行動範囲を広げて、そろそろ自立を促すための訓練期間に入ったのか。生きていくための対処を、背中で教えているようだ。
ルルが開けた草地に出てくるとき、子ども達は暗い森の中で静かに待っている。唸ったり睨んだりして命令する様子は無い。母親の意思は何の手段も介すことなく、人間にはないテレパシーで子どもに伝えられる。
なかなか戻らない母親を待ちくたびれた子ども達が、けんかやじゃれあいを始めることがある。森の中を走り回ってギャオギャオと大騒ぎ。日なたの草の上で気もち良く寝そべっていたルルは、すっと立ち上がって声のする方をしばらく見据える。何がどう伝わったのか、一瞬のうちに鳴き声はおろか気配さえも消えてしまう。
シックスセンスというやつか。こういう能力があればなぁ・・。