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ゾンメルシー

捨てられない物、消え去って欲しく無い物のひとつに<ゾンメルシー>がある。

雪上移動のツールとして北欧などでは太古からあったらしいが、最大の特徴は滑走面全体に貼り付けられたアザラシ(英語=シール)の皮だ。後方へ向かって毛足を揃えることで、前には良く滑るが後ろには下がらない。この機能がそれまで足をうずめながら一歩ずつ歩いていたカンジキを用いた雪中行動から、大きな浮力の自由な登行と短時間の滑降が一気に得られるようになった。

ゾンメルシーはドイツ語で、英語で言えばサマースキー。滑るためだけの道具では無いし夏に限って使われる物でもないが、氷河を抱く欧州の山岳部で進化してきたものという。子供の頃、気象台勤務の父親がそのころロボットといった(現在のアメダス)、山上に設置された気象観測設備の自記紙やバッテリーの交換に冬でもこのゾンメルを履いて出かけていたものだ。

20年ほど前まで日本で唯一このゾンメルシーを製造販売する秀岳荘の依頼で、年間300台ほどオーストリア製の板にアザラシの皮を貼っていたことがある。北電をはじめとした全国の電力会社の送電線管理の人たちや、積雪地で活動する猟師、営林署員、測量士、写真家などから根強い支持があった。やがてアザラシではなくナイロンやモヘアの人口毛皮が一般的になり、さらに昨今では高性能のスノーシューが普及することになった。

画像のゾンメルはシールの端切れを繋いだ自分用のもので、フィットフェルトという本来の皮締め具ではなく、どんな靴でも履けて踵の上がる自作のビンディングを取り付けたものだ。今では体力も失せ、目の前の雪原を歩き回ることも無くなったが、他のスキーよりもコイツは残しておきたい。誰か解って使ってくれる人でもさがそうか。

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