
夜になっても昼間が残した蒸し暑さを感じるようになって、ホタルもそろそろ飛ぶ頃かと、近くの西岡水源池に散歩がてら行ってみた。最盛期はもう少し先なので、乱舞というほどではないが、せせらぎの上や水辺の草の葉先に今年も物言わず光っている。 月の光もない暗い川べりには、結構な数の親子連れやカップルが、声をひそめてじっと見入っていた。独特な浮遊感を添えて残される航跡や、この上なく儚い発光と点滅にじかに触れて、大人も子供も一生忘れ得ない時間をもらって帰る。残念なのは人間の持っている発光器だ。足元が暗いと言ってはホタルの数万匹分の明るさをあたりに拡散させる。「どこどこ?見えないよ」「ほら、ここだ、ここ!」と、よけい見えなくなるのに、信じられないほどの光量の中心をホタルに合わせる。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「わたしらホタルの尻が光るからって、珍しがって見に来てくれるのはいいけど、なにもこれ、好きでやってる訳じゃないんすヨ。1年、いや北海道の場合は2年も3年も掛けてやっと成虫になって、死んでしまうまでの10日ほどの間に、なんとか交尾して子孫を残さなきゃってネ。わたし