
「白きたおやかな峰」という本がある。医者でもあった北杜夫氏が、カラコルムのディラン峰の遠征隊に随行した際の、小説というより随筆のようなものだ。初めて読んだ昭和40年代から、<たおやか>という語句がずっと気に掛かっていて、Amazonで見つけた320円の古い文庫本を1500円で手に入れたのを期に再読した。ディランはパキスタンの奥地、ヒマラヤの西にあって、標高こそ7千米に満たないものの、かつて新谷暁生氏らが遠征したラカポシと深い氷河の谷を挟むように位置する、人間を拒むかのような岩峰だ。 著者は、長く乾いたキャラバンの途上はじめて見えた谷の奥の白い山を<たおやかで白い>というイメージを持ったのだろう。しかし実際のディランは岩と氷の山で、近づくほどに<たおやか>という女性的なイメージとは程遠い。札幌の中心街からは見えないが、街を貫く豊平川をずっと遡った水源近くに、秋10月から夏の7月まで白い雪を纏った無意根山がある。毎朝川沿いの道をこの無意根山に向かってクルマを進めながら、「この山こそ白くてたおやかなイメージにぴったりだ」と自分一人でずっと思ってきた。 11月から5月までの半年以上は「