年別アーカイブ: 2012

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手を揉む

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はるか昔、十代の終わり頃のこと。当時住んでいた東京から、転勤で島根から移動した両親を訪ねて鳥取に旅したことがある。 不肖の息子ではあったが、温かく迎えてくれ、夕食が半ばすすんだところで一杯入って機嫌の良さそうな親父から唄が出た。当地に伝わる「貝殻節」だが、ちゃんと聞くのは初めてだったように思う。 何のォ〜因果で 貝殻漕ぎ習ろうた カワイヤノー カワイヤノ  色は黒うなる  身は痩せる ヤサホーエイヤ ホーエイヤエーエイ ヨイヤサノ サッサ    ヤンサノエ〜エ ヨイヤサァノサッサそれから、勇んで漁に出る様子、漁を終え、愛しい妻子の待つ港へ帰る様子が2番3番と続く。唄が終わってからだったか、それとも唄の途中だったか定かでないが、それとなく父が解説してくれたのを覚えている。 漁師の娘に道ならぬ恋をした若者が、武士を捨て、刀を艪櫂に持ち替えて・・という物語。貝殻といっても文字通りの貝の殻ではなく生きた帆立貝のことで、カワイヤノは可愛い様子ではなく、むしろ可哀想なという意味合いだとか。その唄の持つ世界に、なぜか自分の気持ちが寄り添う想いがあって、何度か口ずさむうちに覚えてし

意外な記録

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遅れてきた初雪はひと月前から一度も消えることなく次々と降り積り、予感が当たってとうとう根雪が確定してしまいました。根雪の定義はけっこうややこしく、正しく理解している人は少ないようですが、気象台の露場(ろじょう=芝で覆われた日当たりの良い平坦地)に10日以上積雪状態が続くこと、一旦消えたとしても5日以内にまた積雪状態になって、その後10日間積雪が続けば、後から記録を遡ってその前の降雪日が「根雪の初日」とされます。ということで今年の札幌は、初雪と根雪の始まりが同じ日という、気象観測が始まって以来初めての記録として残ることになりました。22日の南極昭和基地では、9年ぶりの暖かさで一日中氷点下にならず、雪ではなく雨降りだったようです。もう1つ。記録といえば、先日の衆院選ではドサクサの中で自民党が記録的な大勝利を収めました。 ハチャメチャだった民主党に国民の多くがペナルティーを課し、同時に、新党乱立が争点を脇に追いやって受け皿を無くし、結果、ベストでもベターでもなく、当の自民をはじめ誰も望んでいない予想外の大勝という結果が生じました。中韓をはじめアジア各国や欧米までもが右傾化に警戒感を高めるなか

テーピーピー

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「やいやー、ワヤだな。今年は雪おそくてたいした塩梅よかったのにョ。来たと思ったら一気だもなァ。」頭や肩にのせた雪を払い落としながら、農家のYさんが入ってきた。 この人、選挙が近くなると顔を出す。いつものように「○○に頼むでや!」と言うのかと思って、「選挙かい?」と問いかけるが、「ん・・ああァ・・」と、ちからない返事。「も、どうでもいいでゃ。何が何だかオラにはさっぱり判らん。センキョ受かったら偉ぶって顔なんか出さんヤツが、今だけヘイコラお願いしますお願いしますだ。お願いしたいのはこっちだって・・。やるやるって口ばっかでよ。ガッパリ国から金もらうんだべ、足の引っ張り合いばっかりやらんでしっかり働けっちゅうの。」もともとこぼし専門のYさんだが、今回はいつにもまして投げやりだ。「テーピーピーだってよォ。子方は絶対反対だっていうのに親方の野田は参加するっちゅうんだもの、どもならんべ。それに、ナンなのよ安倍は!自衛隊ば軍隊にするっちゅうしョ。万札どんどん刷って景気が良くなるんだったらオラでもやるわ!それでも自民党がまた天下取るんだべ?」「そうだなァ。愛想尽かして別れたはずの亭主なのに、やっぱり若い

冬の蒼空

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除雪の手を休めて梢に目をやる。 これ以上無いほどに白くそして柔らかい雪が、いま落ちてきた澄み渡る碧空に手を伸ばしている。北国の冬の青空がこんなにも透明で蒼いのは、緯度が高く気温が低いからだと何となく思われているがそれだけではない。 ゆっくりゆっくり舞い降りる無数の雪が、大気中の微細な塵や水分をその結晶の枝にくっつけ、空気を曇らせる全ての原因を取り除いてくれるのだ。 そのクリーンアップ効果は夏の雨でも同様なのだが、猛スピードで落下するのと、水分を蒸散させてそれを大気中に残しながらなので、寒い時の雪の結晶ほどではない。「雪は天からの手紙」という中谷宇吉郎の残した言葉はあまりにも有名だが、これは地上に降る雪を観察すると、その結晶が生まれたはるか上空の気象条件が推測できたり、落ちてくる過程での様々な変化が読み取れるという意味を、ロマンの包装紙で上手に包んだものだ。 そういう視点で雪に触れるのもそれはそれで興味深いものがあるが、寒くて暗い北国の冬に、いっとき爽やかな青空を見せてくれる雪のプラスの効果を、いまこの空の下にいながらありがたいと思う。写真を撮っているこのオニグルミの木の下では、エゾリス

新商売?

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「札幌市の昭和」という写真集を予約までして手に入れた。写真と説明文を読みながらパラパラめくっていくうちに、ちょっとした違和感がどんどん増幅してくる。どうしても腑に落ちないので、出版社をネットで検索した。 ハハァ、そういうことか。騙されたとまでは言えないが、うまく乗せられたといったところだ。入手の経緯から本の内容までよくよく考えると、乗ってしまった自分がちょっと腹立たしい。まず、この写真集を知ったのは北海道新聞1面下段の書籍広告で、刊行記念特価9990円限定3千部予約受付中とあるのを見て、その日の帰り道に書店に寄ってすぐに予約した。そして予約したのをいいことに、発売日からかなり遅れて引き取りに行った。思えばその時からヘンだったのだ。 札幌の人口規模から見て3000部は入手困難だから予約は必須と思いきや、書店入口にはあろうことか山積みになって残っている。数ヶ月経った今でもだ。ここでまず残部僅少で引き付ける商法にハマったことになる。 内容に付いても違和感は増す。懐かしい昭和とはいっても、三十年代後半からはカラー写真が一般化したのに、全部がモノクロで色刷りは目次前の数ページを除いて全く無い。地