
はるか昔、十代の終わり頃のこと。当時住んでいた東京から、転勤で島根から移動した両親を訪ねて鳥取に旅したことがある。 不肖の息子ではあったが、温かく迎えてくれ、夕食が半ばすすんだところで一杯入って機嫌の良さそうな親父から唄が出た。当地に伝わる「貝殻節」だが、ちゃんと聞くのは初めてだったように思う。 何のォ〜因果で 貝殻漕ぎ習ろうた カワイヤノー カワイヤノ 色は黒うなる 身は痩せる ヤサホーエイヤ ホーエイヤエーエイ ヨイヤサノ サッサ ヤンサノエ〜エ ヨイヤサァノサッサそれから、勇んで漁に出る様子、漁を終え、愛しい妻子の待つ港へ帰る様子が2番3番と続く。唄が終わってからだったか、それとも唄の途中だったか定かでないが、それとなく父が解説してくれたのを覚えている。 漁師の娘に道ならぬ恋をした若者が、武士を捨て、刀を艪櫂に持ち替えて・・という物語。貝殻といっても文字通りの貝の殻ではなく生きた帆立貝のことで、カワイヤノは可愛い様子ではなく、むしろ可哀想なという意味合いだとか。その唄の持つ世界に、なぜか自分の気持ちが寄り添う想いがあって、何度か口ずさむうちに覚えてし